インターンシップの足跡-ここから理解は始まる

 清澤先生は、1961年に産学協同を旗印に創設された東洋大学工学部の名誉教授。当協会の前身「関東地域インターンシップ推進協会」の時代から当協会の主要メンバーとして、日本のインターンシップを制度として定着させるために、活躍しています。1990年代後半に広域関東圏におけるインターンシップ推進モデル事業が開始され、関東地域では、関東経済産業局の呼びかけのもとに産業界、教育会が連携して「関東地域インターンシップ推進協会」を立ち上げたのが2001年5月。日本のインターンシップの生き字引といえる清澤先生が3回にわたり、インターンシップの歴史を語ります。

清澤 文彌太 名誉教授

清澤 文彌太 名誉教授

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第1回インターンシップの足跡

I.大学の使命と実学教育


 ヨーロッパを中心に中世に設立された大学は、宗教を中心課題として発足しましたが、その後ルネッサンス時代になると宗教の束縛から逃れた少数の碩学が自由の精神に基づく自然の摂理の探求いわゆる「真理の探求」を課題としたために大学の使命が変わってきました。大学が実社会と接触するなどと言う事は、神聖な大学の没落であるとさえ考えられ、先生と弟子は研究室に閉じこもり、真理の探究のみに没頭していました。

 18世紀後半に起こった産業革命を機に、社会構造が変化するとともに社会の一部である大学も変わらざるを得ない状況となりました。すなわち大学が実社会と没交渉で真理の探究のみに没頭していることは許されなくなり、大学は真理の探究と平行して実社会に役立つ実学を学生に教育し、社会に貢献する専門家を養成する使命も負わされるように大きく変わってきました。

 産業革命以前は、家を建てたり、橋を架けたり、船を造ったりする職人のための学問は、真理の探究を目的とする神聖な大学で取り扱うべきでないと言う考えが強く、大学では工学を専門とする学部はなかなか認められませんでした。しかし、19世紀になると、実学が重要視されるようになり、工学も大切な学問であるとの認識から大学の中に工学部が設置されるようになりました。

 工学部をいち早く大学の中に設置したのはアメリカと日本で、旧来の伝統に囚われたヨーロッパ諸国はこの点では立ち遅れました。また、工学部が設置されても、旧来の真理の探究が重視され、実学の研究・教育や専門技術者の養成に力を入れず、教育は理論偏重となりがちで、内容は理学部的な面が多数あったと言われています。

 20世紀になると、科学技術の急速な発展に伴い、産業界は最新の知識と高度な技術を身につけた技術者が必要となり、大学には高度の専門知識と実務での深い経験とを身につけた専門家を多数養成することが望まれました。更に、規模拡大による大学の大衆化に伴い、専門知識ばかりでなく一般的な教養を高めた「人間形成」という新しい使命も課せられるようになりました。 このような状況の中で、新しい時代にふさわしい技術者を世の中に送り出すために、アメリカではまったく新しい教育制度の試みが始まりました。


II.アメリカでのCO-OP教育の創設


 産業界と大学が連携して工業教育を行うという試みは、1906年に当時のシンシナティ大学工学部長 ヘルマン・シュナイダー(Herman Schneider) 博士の創案で大学と地元の工作機械メーカーの間で行われたのが始まりと言われています。当時はこの教育を「Cooperation Educational Program」(日本語では「産学協同教育制度」と訳した)と呼んでいました。

 この制度は、大学に入学した学生は、最初の1年間は大学で基礎教育を受けます。2年生以降は、一定期間大学内で基礎教育を受けた後に、工場に出向いて実地訓練を受けて、再び大学に戻って教育を受けます。これを卒業するまで何回か繰返します。このような形で教育と実務訓練を受けるので、「Work and Study Program(働いて学ぶ制度)」または「Sandwich Program(サンドウイッチ制度)」とも呼ばれました。

 この教育制度の目的は「学問と実際的な工業技術を兼ね備え、独創性、積極性、協調性の豊かな優秀な技術者の養成」でありました。

 当時の教育ではなかなか与えられなかった実際的な知識と貴重な経験を学生に与え、直接多くの産業人と仕事をすることにより、自分が技術者として適しているか否かを試す機会ともなっていました。企業の管理運営や労働問題の仕事を垣間見ることにより、将来これらの問題に取り組む心構えをも与えることにもなりました。

 実地体験を通して工学知識の応用の実際を知ることにより、大学に帰ってからの学問知識の探求の熱意を高めると共に、実務上で学業の成果を実地に応用する機会を得ることができ、学生にとって、技術者として成長した姿を認識できる効果がありました。

 この制度の最も大きな効果は、年齢、学歴、職歴、地位などの異なる多数の企業人の中で切磋琢磨されることにより、独創性、積極性、技術に対する高い見識、人間関係の重要性など学生の人間形成上に大きな効果があると言われていました。

  現在、我が国で行われているインターンシップの源流は、この制度にあると言われていますが、実施形態は変わっても目的や効果については、アメリカで創設されたCO-OP教育と何ら異なることはないと思われます。