自治体と大学が連携した取組-青山 やすし(あおやま やすし)教授の実践型授業

自治体政策ゼミで東京都墨田区への政策提言を


 青山教授は元東京都副知事。行政のプロとして都庁を勤め上げ、作家生活(ペンネーム郷仙太郎)を経て大学教授に転身された3年前から、そのゼミナールで「墨田区長への政策提言」を行っています。

 昨年も青山ゼミの学生たちは、区内のフィールドワークで町の人たちのお話を聞きながら、「新東京タワーをシンボルとした多機能複合市街地のまちづくり」を進める政策提言し、今年も新たな政策提言に取組んでいます。

 青山先生のお話は3回連載で、第一回は「アカデミズムを強くするフィールドワークの取組み方」。このあとも、フィールドワークやインターンシップなどの人材教育に係る大学側の組織的な取組みや大学間の連携、枠組みの構築がなぜ必要なのか、大学教育のおもしろさなど、縦横無尽に語っていただきます。

青山 やすし 教授
青山 やすし 教授
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青山ゼミナール、墨田区長へ政策提言」(明大ホームページより)

第1回 アカデミズムを強くするフィールドワーク(FW)の取組み方

創造的人材の養成は大学に対する社会の要請


 私が36年間勤めた東京都では、近年、住民の価値観が多様化して、都の職員には正答率の高い人材より、問題そのものを作り出す創造的な人材が必要になってきたと感じていました。同じ頃、経団連でも「創造的人材」の育成を宣言し、民間も自治体も同じなのだと共感した記憶があります。

 ここで私が考える「創造的人材」とは、コーディネイト・ネットワーク・コミュニケーションの三つの能力に秀でた人材です。私が大学教授なって以来、3年間続けている「墨田区への政策提言」は、大学での学びと若者の視点をつなげて、これらの三つの能力を伸ばしていくこと、すなわち、政策提言を作り上げるプロセスを通して学生の学びを強くしつつ、人間的な成長を見守ることを目的としています。

青山 やすし
青山 やすし 教授

フィールドワークを成功させるポイント


 政策提言を行う場合、教員が必ずすべきことは、FWの枠組みを作り、学生に明確なゴールを示すことです。たとえば、行政のどの相手と組むかを決めたら、その地域を教員が必ず自分の足で現場を歩いてみて、学生たちが行く場所を決め、役所の担当者だけでなく商店街や施設責任者などポイントとなる町場の人たちに接触して一人一人お話を聞き、学生たちを誰に会わせてどんな話をしてもらうか、といった環境整備をします。

 その枠組みを作った上で、学生のFWが始まったら、教員は完全に彼らのやり方や内容に任せることが重要です。福祉から取組もうが、どういうグループを作ろうが、それを決めるのは学生で、絶対に口を挟んではいけません。「どんなに教えたくても必死で口を閉じて、学生の行動を見ていない振りをしながら、実はしっかり見ている」のが、教員の役割なのです。

 なぜなら、現場の人たちが聞きたいのは、いつでも聞ける大学教授の話でなく、経緯や慣習を知らないからこそできる大学生のフレッシュでピュアな提言です。もちろん、政策としてブラッシュアップされたものでなくては意味がありませんから、そこまで内容を高めることが前提です。これは相手が企業でも地方自治体でも同じです。


具体的なフィールドワークの進め方


 私のゼミでは、入室が決まった2年生を2月か3月のうちに、墨田区内を私が連れて歩いて、FWのイメージをつかんでもらいます。その後、それぞれがテーマを決めてグループに分かれ、グループごとにFWが始まります。

 現場に出た彼らにさまざまなことを教えてくれるのは、年齢も立場も違う町場の人たちや役所の人たちです。同時に、政策提言の主力である3年生は、ゼミの4年生や社会人になったOBの先輩から教わることも大切です。また、自分たちでつながりをつくった役所の人や区の議員に、アドバイスを仰ぐこともあるようです。

 FWで教員が指摘するのは「その根拠は?」だけ。それは区の権限でできるのか、裏付けとなる法律を調べたか、助成金は使えるか、同じ案件でもそれぞれの管轄省庁に届け出が必要など、座学では学ばずに済ませてしまうところを、学生たちは必死で調べます。こうしてアカデミズムを現場で確認しながら学ぶので、基礎学問の大切さを肌で知り、普段の授業も非常に熱心になります。

 今の一般的な大学の枠組みでは、実践型授業を行うのは座学の数倍の負担というのが私の実感です。それでも、そうやってゼミで成長した4年生が、今度は就職活動を通して短期間にさらに大きく変わっていく姿は感動的で、私の教員としての喜びもここにあります。