高校での取り組み 都立本所高校が取り組む“キャリア教育”

自己理解から自己実現のためのプログラム


 都立本所高校では、「自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考える」を目標に、2003年から「総合的な学習の時間」を利用して、S-Fプログラム(Self-Fulfillment自己実現プログラム)に取り組んでいます。

 学校独自に作成したワークシートをもとに、1年生は職業調べ、2年生はインターンシップ、3年生は模擬面接など、さまざまなワークを行い、活動を通して、今では墨田区内の中高連携などにも広がっています。

 S-F部主任の北原理史先生に、高校におけるキャリア教育の意義、インターンシップの取組み方など、お話をうかがいました。

北原 理史 先生
北原 理史 先生
profile

“人生を自分で切り拓いていく”キャリア教育

ワークシートを使い、徹底的に「自分と向き合う」


 本校の生徒たちは、地域性からか、どちらかというと大人しいタイプの子が多いのですが、S-Fプログラム(Self-Fulfillment自己実現プログラム)のワークを通じて、自分についてよく考え、さらに人の前で発表するということを繰り返すことで「自信」がついてきたことが、生徒たちの立ち居振る舞いや表情から見てとれます。この変化には、横で見ている私たち教師が一番驚いています。

 S-Fプログラムの大半は、ワークシートを使い、「10年後のあなたは、○歳。何をしていますか」や「高校で伸ばしたい能力は何ですか」など、ワークシートに書かれた質問に答える形で記入していくという地味な作業です。この作業を通して、徹底的に「自己理解」をはかり、そしてインターンシップ、模擬面接練習など他者との触れ合いを通じて、最終的には、「自己実現」できる自分へと導いていこうというのが、プログラムの狙いです。


「実感する場」であるインターンシップ


 2年生で行うインターンシップの受け入れ先はさまざまですが、知的障害者の作業所にうかがうこともあります。最初は、希望と違って嫌だと思っている生徒たちも、1日一緒に仕事をし、食事をともにすると、「こういう世界もあったのか」と気づいたり、障害のある方への偏見がなくなったと報告する生徒たちがいました。

 また、新橋にある企業にインターンシップにうかがう際、道に迷ってしまった生徒は、とっさに企業のご担当者に電話を入れ、指示を仰ぐということができました。「道に迷った、遅刻する」というパニックに陥りがちなところを、まずご担当者に電話を入れることができたという「コミュニケーション能力」に対して、担当の方から評価していただいたということもありました。

 インターンシップを経験した生徒たちからは、「働くこと、お金を稼ぐことって大変だと実感した」という声が多くあがります。数学やパソコンなど、学校の授業で習ったことが、そのまま会社で使われていることに感激している生徒もいました。こうした経験は、今、学校で習っていることは、社会で活かせるということを実感できるので、その後の勉強への取り組みも変わってくるのです。


進路決定、大学受験に関して


 もちろん本当の自分なんて、高校を卒業してすぐに見つかるものではありませんから、進学や就職などの目先の結果よりも、将来の目標のために「そのために、今何をするの」ということを自分で考えて欲しい、10年、20年、そして30年後の自分を想像してほしい。そうした教師達の思いがつまったプログラムになっています。

 実は、本校の04年度の卒業時進路未定者は、全卒業生の14.0%でした。しかし、このプログラムを3年間受け続けた昨年度の卒業生は、それがなんと4.6%に激減したのです。これは、もちろん進路指導部の努力によるところも大きいのですが、プログラムを通じて自分のことを理解し、インターンシップを経験したり、外部講師からのお話を聴くなど、外の世界を見ることで、将来の自分をイメージできたことなども一因になっているのではないかと思っています。

 最近、本校の進学実績が上がってきているのは、キャリア教育が大学選びの指針を与えた結果ではなく、ワークやインターンシップを通じて、現在高校でやっている勉強は、将来につながっているのだと実感できた生徒が、学習面でも意欲を見せ、進学実績に現れているのだと感じています。


大学のキャリア教育では、働くことへの「コンセプト」形成を


 今、中高のキャリア教育も充実してきています。生徒たちにはそれぞれの進学先で、中学校あるいは、高校の3年間で学んできたことを様々な場面で試行錯誤し、「自分で人生を切り拓いていく力」をつけて行って欲しいと思っています。

 大学への要望を言わせていただけるならば、就職指導の際にも「キャリアに対する意識」をしっかり学生に持たせる努力を惜しまず、その成果を活かしてもらいたいと思います。今後は、この「キャリアに対する意識」を明確に持った学生を育てることが、非常に大切な社会になると思います。こうした取り組みが、自然に大学の就職実績にもつながっていくのではないでしょうか。